ニンジンの一大産地、糸満を支えていく。
県内一の生産量を誇るからこそ、品質にもこだわりたい。
先輩方の苦労があって、今の糸満ニンジン「美らキャロット」がある。親から受け継いだ土地で、これからも多量生産と高品質にこだわり続けたい。偉大な先輩方が築き上げた産地の誇りを胸に、次世代に繋いでいくと意気込む農業人を紹介。
沖縄本島最南端の「美らキャロット」
糸満市小波蔵で国道331号を右折し、喜屋武へ向かう。喜屋武集落を抜けると、平坦な地形にサトウキビ畑とニンジン畑が広がっている。沿道は静かな農業地域のたたずまいを見せていた。
その一角でニンジンを収穫していた、安谷屋健治さん(46歳)を訪ねた。日に焼けた顔に引き締まった体格、日々体を動かしていることがよくわかる。
親の代から続く二代目農家。健治さんが本格的に農業を始めたのは6、7年前とのこと。
小さい頃からよく手伝わされて、将来、絶対に(農業は)やりたくない、と思っていたそうで
「若い頃は本土で働き、沖縄に帰ってきてからも別の仕事に就いていました。親父が亡くなったあと、一人でニンジン作りに励むお袋から誘われたのがきっかけです」
現在、喜屋武地区のあちこちに10か所、合わせて約4000坪(1・3ヘクタール)の畑で、母・静子さん(73歳)と姉の喜美枝さん(52歳)の3人でニンジンを栽培している。
沖縄一の産地にはじない品質
9月に入ったら種を播き、年明けの1月から4月ごろまで収穫する。直播きが基本となるが、等間隔で種をまくシーダーテープを使うことで、間引き作業の手間を省いている。 その後は除草作業と土寄せが重要で、これはもっぱら静子さんと喜美枝さんが担う。子どもたちも休みのときは手伝ってくれるそうだ。
土寄せとは、土から顔を出したニンジンの頭が、日が当たると青くなってしまうのを防ぐための作業で、一本一本へらで土を寄せる作業である。
露地栽培のため、芽が出たばかりのときの台風は致命的だが、去年はネットを使用して最小限の被害に留めることができた。ネットは台風だけでなく、高温対策や大雨対策にも効果があるという。
4月にニンジンの出荷が終わると、島ラッキョウも作るがひと月ほどで収穫してしまう。基本的にはニンジン植え付け前の土づくりに時間をかけるのだという。
「平成25年の『花と食のフェスティバル』の園芸関係品評会で金賞をもらったことが大きな自信につながりました」
その後も、平成26年、平成30年と金賞を3度も受賞している。毎年のように出品するのには、
「糸満は県内一の生産量を誇っていますが、品質でも負けたくないので継続して出品しています。また、受賞して周りが喜んでもらえるなら」
静かな闘志と周りへの気遣いを語る。
迷いのないニンジン作り
糸満を代表する品種、TE30(平成21年から「美らキャロット」として商標登録)を作っていて、昨年は約40トンを出荷。市場の出荷分と、JAファーマーズマーケットいとまん「うまんちゅ市場」の出荷分と半々の割合となる。市場出荷分は、JAを通じて糸満産として県内外の市場に送られている。
健治さんは一昨年から「うまんちゅ市場」の生産者会副会長を務め、毎月の定例会のほか、土日のイベントがあるとかかりっきりになる。
「1000名以上の生産者がいて、沖縄一野菜の品ぞろえが豊富、新鮮で安いのが自慢なんですよ」と胸を張る。
時間をみつけて、毎日市場の様子を見に行くという健治さん。直接消費者と話したり、農産物の売れ行きなどをチェックしたりする。
うまんちゅ市場の品揃えや消費者の要望も踏まえ、毎年、600坪(20アール)の畑でスイートコーンもつくっている。お客様の評判も上々だ。
「ニンジン栽培に関して特に悩みはないです。毎年、去年の悪かったところを直して、今年につなげるようにしています。去年はB品が少し多めだったので、A品を作るために、土寄せや水管理を徹底したい」
ニンジン作りを次世代に伝えたい
健治さんにこれからの展望を聞いてみた。
「毎年ニンジンを作っていくだけです。これまで糸満でニンジンをつくってきた先輩方、自分の親もそうですが、すごいなあ、と思います。おかげで沖縄一の生産地として今の糸満のニンジンがある」
母・静子さんも昔は夜中から那覇の農連市場に行って野菜を売り、朝帰ってきて農作業に励んでいたという。
「お袋は、いつ休んでいたのだろうか。自分も親や先輩方に負けず、消費者が求めるニンジンをつくることを頑張っていきたい」
健治さんも所属するJA糸満支店蔬菜生産出荷部会ニンジン専門委員会では、市内の保育園児や児童に、ニンジンの種まきから収穫までを体験してもらう食育活動に取り組んでいる。
健治さん自身も、ニンジンの良さを子どもとたちに伝えることは大切な役割だと感じているので、積極的に参加している。
一大産地の誇りを胸に、健治さんは今日も「美らキャロット」に情熱を注ぎ、次世代に受け継いでいく。
JA担当者の声
南部地区営農振興センター
野菜果実指導課 立石 豊
若手とベテランの間を取り持ち、どちらからも信頼されています。JAのデータ収集やイベントなどにも協力的で、また、「うまんちゅ市場」の運営にも貢献大です。
JAおきなわ広報誌:あじまぁ
地域で頑張る農家を紹介する「農業人(はるんちゅ)」はあじまぁに掲載されています。
「あじまぁ」は組合員、地域とJAをむすぶコミュニティーマガジンです。各JA支店・JA関連施設(ファーマーズマーケット、Aコープ、JA-SS)よりお持ち帰りいただけます。
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