次代を担う 意気!域!農業人
竹富町黒島
仲嵩 秀文(なかたけ ひでふみ)さん
ゆったりした時間が流れる黒島が好き。
目標は50頭の飼育、ブランドの確立にも取り組みたい。
「いろいろなことを島の先輩たちと相談しながら、一致団結して実現していきたい」。牛好きはおばあちゃん譲り。父のサポートの下に、石垣島に住む妻と子どもたちからの声援を背に、小さな島で大きな夢を育む農業人。
石垣港から牛の島「黒島」へ
少しだけ秋めいてきた10月下旬、石垣港から黒島港までフェリーであっという間の30分を過ごした。
黒島港から車で島の幹線道路を走ると、どこまでも平坦な地平線が広がり、ここがわずか10平方キロ余の島とはとても思えない。人口約200人の島に3000頭の牛が飼われているという。
東筋集落と仲本集落のほぼ境にある、牛舎を訪ねた。周囲は放牧地になっていて、他に建物らしきものは見えない。牛舎内で作業をしていた今号の農業人・仲嵩秀文さん(39歳)が、作業をとめて取材陣を快く出迎えてくれた。
きっかけは、黒島が好きだから
秀文さんは、この地で牛を育てて11年目。現在、黒毛和牛の母牛23頭を飼育している。年間6回ある黒島家畜市場のセリには毎回平均3頭ほど出荷しているそうだ。
「もともと母方の祖母(上原千代さん)が牛を飼っていて、父・宣浩さん(75歳)は伯父とここ(黒島)で建設業を営んでいました。朝夕は、祖母の牛の面倒を見ていたそうです。私は石垣島で生まれ育ったのですが、おばあちゃん子で黒島をとても身近に感じていました」
ゆくゆくは父たちの仕事を手伝うつもりで県外の測量会社で働いていた。
しかし、叔父が立ち上げた事業をたたんでしまった為、秀文さんの黒島での働き口がなくなってしまった。
それでも、黒島に住みたくて、和牛繁殖農家になることを決意した。
愚問ながら「(黒島の)どこが好きですか」と聞いてみると、
「ゆったりした時間ですね」
秀文さんはにっこりと笑い、答えてくれた。
「畜産業は初期投資がかかります。幸い、県の畜産担い手総合整備事業を活用でき、草地の造成と牛舎を建てることができました。もし、タイミングが合わなければ牛舎もなく、放牧だけで牛を育てていたかもしれません」
健康的な黒島の牛
黒島の和牛繁殖の強みは、妊娠した牛を放牧できることである。餌をしっかり与えれば、世話が少なくすむので、その分、頭数を飼うことができるそうだ。また、牛にとっても牧場内を移動するため運動量が増え、人間と同じで、健康にも良いのだという。
「本土では平均7産・8産と言われている母牛も、農家によって考えはさまざまで、私はいい雌牛を見つけたらその都度、増頭や切り替えるようにしています。いずれは50頭くらいまで増やしたいですね」
一年一産を目標に掲げ、実現するにはまず、牛の発情期を見定めることが重要となる。3年前に農業大学校で、人工授精師の資格を取得。その知識を活かして毎朝、まずはそのチェックから始まり、それから餌やりをしながら牛たちの健康を隈なくチェックする。
子牛が食べやすいようにと、牧草を細かく刻み、栄養がバランスよくブレンドされた濃厚飼料を、一気に与えず時間管理で細分化して与えたり、足腰の負担軽減につながるワラを敷いたりと工夫は多岐にわたる。
島のため、家族のため、まだまだ頑張れる
秀文さんは、経済状況や自然災害がつきまとう営みだからこそ、和牛繁殖だけということが経営のリスクにならないか気になるそうだ。
「始めた翌年がリーマンショックの年で、子牛の価格が平均25万円くらいまで下がりました。
競りの代金はほとんど牛の餌代や支払いに消えていき、数年間は借金をしながら生計を立てなければなりませんでした。
また、4年前に干ばつに襲われ、粗飼料が不足した時には、JAや青壮年部盟友の協力があって、なんとか乗り切りました」
いずれは肥育も手掛け、黒島産のブランドをPRできたなら、島に子どもたちも帰って来やすいかな、とも考えているそうだ。
「勝手に一人で動くのではなく、まずは考え方が同じ仲間を募って始めたい。うまくいけば周りに声をかけていくというのが島のやり方です」
島の約50農家は結束が強く、牛が難産の場合などは、必ず手伝いに駆けつけてくれるのだという。
現在、子ども2人は、石垣島で臨時教員をしている妻と暮らしているが、妻も黒島に住みたいとのことで、保育士免許の取得を目指して勉強をしているとのことだ。
また、島で若手の秀文さんは現在、黒島肉用牛生産組合の事務局やJA八重山支店青壮年部で活躍している。
「父が(留守を)見てくれるからこそ、島外の青壮年部の活動に参加でき、様々な情報を収集しています。感謝しています」
4年前には、沖縄県畜産共進会に八重山地区代表で出品するという快挙をなし、大きな自信となった。
「島のPRになれば」、と取材は断らないようにしているという言葉にも「島への愛」が感じられる。
黒島が大好き、だからまだまだ頑張れると力強く話す秀文さんだった。
JA担当者の声
八重山地区畜産振興センター
畜産部畜産課 阿次富 秀虎
気遣いの出来る方で、黒島肉用牛生産組合の事務局の仕事をこなしながら、繁殖素牛の導入等増頭にも意欲的です。
JAおきなわ広報誌:あじまぁ
地域で頑張る農家を紹介する「農業人(はるんちゅ)」はあじまぁに掲載されています。
「あじまぁ」は組合員、地域とJAをむすぶコミュニティーマガジンです。各JA支店・JA関連施設(ファーマーズマーケット、Aコープ、JA-SS)よりお持ち帰りいただけます。
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