部会でもトップクラスの反収15トンが目標。
農業の「の」の字も知らずに飛び込んで10年目、さらに高みを目指す。
脱サラして農業の道へ、妻・光恵さん以外、家族も周りもみな反対したという。農業用水の確保やハウスの倒壊など、どんな困難にも負けず、常に前向きに取り組む。人一倍の向上心を持って、ピーマン栽培に情熱を注ぐ農業人を紹介。
ピーマンの里、ぐしちゃん
八重瀬町のJA具志頭支店から、国道331号を港川向けに車を走らせる。昨年オープンした地域の農産物などを販売する「南の駅やえせ」など、沿道は真新しい建物が目立つ。仲宗根朝洋さん(33歳)のハウスは港川のお隣、長毛にある。
4月下旬、初夏を感じさせる陽気の中、取材陣がビニールハウスの前で待っていると、ホロ付き軽トラの荷台に、収穫したてのつやつやのピーマンを積んで、朝洋さんが到着した。3月から5月にかけては、ピーマン農家の繁忙期である。ハウス内ではきびきびした動きで、取材の段取りを確認、それもそのはず、
「20代前半は、カメラマンや雑誌の仕事をしていて、早朝から夜遅くまで仕事漬けの日々でした。結婚して子どもを授かり、このままずっとは続けられないな、と。仕事で農家を取材したことがあって、『そうだ、農業をやろう』と」
朝洋さんが就農のきっかけを話してくれた。
先輩の後押しで決断
長年サトウキビを作っていた祖父は、農地を人に貸していた。祖父に「農地を貸してほしい」と申し出ると、農業の苦労を知る祖父からは「やめたほうがいい」と返事が返ってきたという。それでも朝洋さんの意思が固いと知ると、農業のいろはを手ほどきしてくれた。あれから早9年が経つ。
「はじめからピーマン栽培でした。父が地元の友人たちと模合をしていて、その中に農業をしている方がけっこういました。相談したら『具志頭だからピーマンだろう。俺達が教えるから』ということになりました」
この地で生産された「ぐしちゃんピーマン(品種名・ちぐさ)」は、大きくて肉厚、甘くてジューシーと、高い評価を受けている。JA具志頭支店の野菜生産部会約90名のうち、3分の2がピーマン生産農家だ。管内の生産量は1200トンで県全体の6、7割を占める。
朝洋さんはピーマンを栽培するにはハウスを建てないとどうしようもないと、栽培1年目から県の補助事業を活用してハウスを導入した。
「周りには最初から借金はするな。と言われましたが、当時はまだ20代前半と若く躊躇なく決断できました」と振り返る。
栽培1年目で最大のピンチ
9月半ばから11月中旬まで苗を植え付け、11月初めから翌年の6月いっぱいまで収穫される。今年は1300坪で40トンの収穫を見込んでいて、多いときは妻・光恵さんも手伝い、1日に60ケース、600キロを収穫するそうだ。 「連作障害を防ぐため、夏場の土づくりはもちろん、ハウスの開け閉めや水やりは徹底しています。分からないことは、部会の先輩に聞いたり、インターネットで調べたりしています」
朝洋さんがこだわりを教えてくれた。
すべて順調に見える朝洋さんだが「実は栽培1年目で導入したハウスの屋根が台風でつぶれました。屋根が落下しているのを見たときには、へなへなとその場にくずれ、打ちのめされましたが、部会の先輩たちが片づけを手伝いに来てくれました。とても有難かったです」
今でも年に2、3回、そのときの夢を見るという。「でも、辞めようと思ったことは一度もないです。台風被害が、今となっては奮起する材料になりました」
最大のピンチも今では良き経験となった。
部会トップクラスの反収を目指して
目下の悩みは水の供給である。農作物には水やりが不可欠であるが、降雨に頼っていてはおぼつかない。朝洋さんは、敷地に穴を掘り、二重三重にビニールを敷き詰めた人工池で対応している。雨が降らない時期には、JAから借用した水タンク付きのトラックで、2日間で100トンの水を運ぶ。
「水の確保には、他の農家以上の苦労をしています。他の地区では地下水の設備が整っていて、農業用水に恵まれていますが、ここにはありません。今後は、予算次第で井戸を掘ることも検討中です」 改善を模索する日々である。
朝洋さんの当面の目標を聞いてみた。
「反収を上げることですね。現在8トン前後ですが、部会でもトップクラスとなる15トンは可能だと感じています。県外では、品種は違いますが反収20トンという農家もいて、とても刺激になっています」
部会の活動で、県内外の優良ほ場の視察や、県外量販店での販促活動にも積極的に参加。今後の農業に活かす情報収集は決して怠らない。
「農業の醍醐味は、1日の労働の後の疲れ方が気持ちいいんです。家へ帰って飲むビールがめちゃくちゃうまい。明るくなったら出かけていって、暗くなったら家に帰る。家族との時間もたっぷりとれますし、それが私の活力源です」
向上心溢れる朝洋さんが育てる「ぐしちゃんピーマン」は、これからも目標に向かって大きく実るに違いない。
JA担当者の声
南部地区営農振興センター
野菜果実指導課 野原 銀次
探求心が旺盛で、いろいろなことを聞かれるので、こちらも勉強になります。生産部会の活動にも積極的に参加し、年代を超えて、多くの生産者と交流しています。
JAおきなわ広報誌:あじまぁ
地域で頑張る農家を紹介する「農業人(はるんちゅ)」はあじまぁに掲載されています。
「あじまぁ」は組合員、地域とJAをむすぶコミュニティーマガジンです。各JA支店・JA関連施設(ファーマーズマーケット、Aコープ、JA-SS)よりお持ち帰りいただけます。
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